好きなことを仕事にしよう。安定した業種を選ぼう。フリーランスこそ至高の働き方だ。スキルアップできる会社に入ろう。自分だけの強みを生かそう。コモディティ化しない職業が最高——。
世の中には,さまざまなキャリアアドバイスがありますが,その大半は個人の経験や嗜好にしかもとづいていないという問題があるといいます。
サイエンスライターである鈴木佑さんの著作『科学的な適職』では,あなたの価値観やライフスタイルを組み込んだ,自分だけの「適職の選び方」を編みだす具体的な方法が紹介されています。
自分にとっての適職を探している人におすすめ
本書は,「自分はどんな仕事をやるのがいいのだろう」と思っている方におすすめです。
前述のように,さまざまなキャリアアドバイスの大半は,「その人」に合っていたのであって,「あなた」の経験や嗜好に合っているかは,別ものです。
また,転職エージェントでよくある「業種や職種」「性格テスト」「適正」なども「大罪」に含まれているので(もちろんエージェントにはそれ以外のサポートする意義も十分あります),自分にとっての適職がわからない方は,有意義な一冊となるはずです。
『科学的な適職』の目次
本書の構成は,以下の通りです。
- 序章:最高の職業の選び方
- ステップ1:幻想から目覚める 仕事選びにおける7つの大罪
- ステップ2:未来を広げる 仕事の幸福度を決める7つの徳目
- ステップ3:悪を取り除く 最悪の職場に共通する8つの悪
- ステップ4:歪みに気づく バイアスを取り除くための4大技法
- ステップ5:やりがいを再構築する 仕事の満足度を高める7つの計画
本書では,まず,なぜ私たちはキャリア選びに失敗するのかといったところからはじまります。次に,そんな仕事選びをするときに陥る幻想が紹介されます。
そして,幸福度を高めるもの,反対に最悪の職場に共通する項目を知り,最後に,自分にあった適職について,測っていきます。
なぜ私たちはキャリア選びに失敗するのか
ハーバードビジネススクールが行った調査によると,就職と転職の失敗は,およそ7割が「視野狭窄」によって引き起こされるといいます。
そして,人間がキャリア選びを間違える理由は大きく2つあります。
- 人類の脳には,職業を選ぶための「プログラム」が備わっていない
- 人類の脳には,適職選びを間違った方向に導く「バグ」が存在している
こう聞くと大げさに感じてしまうかもしれませんが,本書では5つのステップ(目次参照)を経て,
- 意思決定の制度を上げて正しい仕事を選ぶ
- 正しい仕事を通して人生の幸福度を上げる
ことを目的にします。
仕事選びにおける7つの大罪
著者は,自分にとって正しい選択肢を選ぶとき,まず行うべきは,仕事選びの場面で誰もがハマりがちな定番のミスを知っておくことだといいます。
本書では,「人間の幸福とは関係ない仕事の要素」について7つあげられています。
- 好きを仕事にする
- 給料の多さで選ぶ
- 業界や職種を選ぶ
- 仕事の楽さで選ぶ
- 性格テストで選ぶ
- 直感で選ぶ
- 適正に合った仕事を求める
本書では,故スティーブ・ジョブズがスタンフォードの卒業式で語った有名な一節を例にあげた上で,ジョブズ自身が決して好きでエレクトロニクスの道に進んだわけではないといいます。
「たまらなく好きなことを見つけてください。これは仕事についても恋愛についても同じです。仕事は人生の大きな一部であり,そこから深い満足を得るには心から最高だと信じられる仕事に就くしかありません。そして偉大な仕事をする唯一の方法は,自分の仕事を愛することです。もし好きなことがないなら,探し続けてください」
Steve Jobs’ 2005 Stanford Commencement Address
これは,「好きを仕事にする」ことのすべてが間違っているというわけではありません。いかにすごい成功者のアドバイスでも,あなたに合っているとは限らないということです。
ちなみに,ジョブズがエレクトロニクス業界に入ったのは,「楽して金を儲けられる」という広告を雑誌で目にしたからです。
仕事選びにおける7つの徳目
一方,「あなたの仕事人生を幸せに導くために必要な要素は何か?」というポイントについて,「仕事の幸福度を高める7つの徳目」をあげています。
- 自由:その仕事に裁量権はあるか?
- 達成:前に進んでいる感覚は得られるか?
- 焦点:自分のモチベーションタイプに合っているか?
- 明確:なすべきことやビジョン,評価軸はハッキリしているか?
- 多様:作業の内容にバリエーションはあるか?
- 仲間:組織内に助けてくれる友人はいるか?
- 貢献:どれだけ世の中の役に立つか?
これらの要素を満たさない仕事は,どれだけ子供のころから夢に見た職業であっても,誰からもあこがれられる業種だろうが,最終的な幸福度は上がらないといいます。逆に言えば,これらの要素がそろった仕事であれば,どんなに世間的には評価が低い仕事でも幸せに暮すことができることになります。
また,本書では,人間を幸福に導く7つの徳目とは逆に「ネガティブな要素」をあげています。
- ワークライフバランス崩壊
- 雇用が不安定
- 労働時間が長い
- シフトワーク
- 仕事の裁量権がない
- 周囲からのサポートがない
- 組織内に不公平が多い
- 通勤時間が長い
大切なのは,いくら自由が効く仕事や達成感のある仕事に就いたとしても,働く環境にひとつでもマイナスの様子があれば,「7つの徳目」がもたらすメリットが無になりかねないという点です。
幸福度を上げるためには,ポジティブな側面だけでなく,ネガティブな要素に「ひとつでも」当てはまらないよう気をつける必要があるということです。
まとめ
本書は,5つのステップで「あなたの適職」がわかります。
もちろん,人生の節目(就職,結婚,病気,出産など)で幸福度を感じる価値観が変わることはあります。そのときは,また本書のステップを実践してみましょう。
書名 | 科学的な適職 |
著者 | 鈴木祐 |
出版社 | クロスメディア・パブリッシング |