2007年に放送されたテレビドラマ『ハケンの品格』は,篠原涼子さん演じるスーパーハケン大前春子が会社内で起きるさまざまなトラブルを乗り越える内容で平均視聴率20%以上を誇りました。
そんな『ハケンの品格』が僕は大好きです。
個人的なことを書くと,僕はこれまでテレビドラマをほとんど見たことがありませんでした(大人になればそういう人も多いはず!?)。そんな中,『ハケンの品格』の続編が放送されることを知って,「仕事に近いし見てみようかな」とHuluで見はじめたところ,ハマってしまいました。
ということで,『ハケンの品格』についてまとめました。
『ハケンの品格』のあらすじ
2007年冬,永久不滅と思われていた終身雇用,年功序列といった日本の雇用形態は瀕死の状態に陥っていた。
長引いた不況で企業は自らをスリム化するために労働力のアウトソーシング化を進め,その結果,非正規雇用者,特に「派遣」と呼ばれる人類が爆発的に増殖することになった。
現在,派遣人口300万人。
しかし,給与は時給制でボーナスなし。交通費は原則自己負担。3ヶ月ごとの厳しい契約見直し。その環境は不安定で厳しい。
そんな茨の道をたくましく生きる派遣たち。
上の文章は,『ハケンの品格』第1話がはじまるときに流れるナレーションです(ナレーションを担当しているのは田口トモロヲさんです。第2シリーズも担当するとのこと)。
このあらすじをもう少し噛み砕いてみると,日本は終身雇用(一度入社したら定年まで雇用されること)で年功序列(年齢が上がるにつれて給与が上がっていった)でしたが,1991年のバブル崩壊からの不況,グローバル化による競争激化により,瀕死になっています(現在進行系)。
現在でこそ,終身雇用の神話が崩壊し,「転職」がネガティブなものではなくなりましたが,ほんの少し前までは「転職=ダメな人がするもの」というレッテルが貼られていました。ちなみに地方の特に中高年層の間では,まだまだこの価値観が力強く残っている人も多くいます。
また,これまでは入社して勤続年数が上がるにつれて,お給料もエスカレーター式に上がるのが当たり前でしたが,西洋の実力主義が浸透した結果,会社にいても実力がなければお給料は上がらないことが多くなりました(反対に言えば実力がある人にとっては生きやすくなったのかもしれませんが)。
そんな中,企業は販管費(販売費と一般管理費。ここではとりわけ人件費)を下げるために労働力を必要なときに必要なときだけ発注するアウトソーシング(外注)化することになります。
その結果,本作のテーマでもある「派遣」としての働き方が増えることになりました。
『ハケンの品格』を見る前に知っておきたい時代背景
1986:労働者派遣法施行(派遣対象業務は限定的)
1991〜:バブル崩壊
1997〜98:大手金融機関の破綻相次ぐ
1999:派遣法改正(一般事務の派遣,原則自由化)
2000:大卒の就職内定率,史上最低に
2004:改正派遣法施行(派遣対象業務,製造業に拡大)
2005:派遣市場規模,4兆円突破
では,そもそも『ハケンの品格』が放送された当時(2007年1月〜3月)には,どのような時代背景があったのでしょうか。上の年表は同じく第1話のナレーション時に掲載されたものです。
1986年労働者派遣法施行
元々,「労働者派遣」というのは禁止されていました。理由は,江戸時代まで遡ると,「口入屋」(遊女なども扱う)と呼ばれる人身売買業により,劣悪な労働環境が問題になっていたからです。
1986年,それが13業務(同年3業務が追加され16業務)に限定されて派遣業務が解禁されました。13業務は,ソフトウェア開発や通訳・翻訳・速記,調査,財務処理などの専門分野です。
1991〜:バブル崩壊
1986年から1991年まで日本は「バブル景気」と呼ばれる好景気でした。
1985年,「プラザ合意」(日・米・英・独・仏の5カ国がアメリカのプラザホテルに集まり,ドル高で貿易赤字に悩むアメリカのためにドル安政策の合意をしたこと)をきっかけに,日本は急激なドル安円高になりました
これにより日本の大企業は輸出企業が多いため,円高不況になりました(輸出をしてドルが入ってきても,1ドルあたりの価値が低いため利益になりにくい)。
このショックを和らげるために日銀は公定歩合を下げ(金利を下げてお金を借りやすくする),金融緩和を続けました。その結果,株式や土地などへの投機が加速してバブル経済が発生しました(お金を借りて株式や土地を買う。株式や土地はどんどん値上がりする)。
しかし,1991年,度重なる「金融引き締め」(利率を上げてお金を借りにくくする)や前年の「総量規制」(土地の投機的な取引を牽制する大蔵省の通達),土地に関するさまざまな税金の創設や強化によりバブルは崩壊しました。当然,借金をして株や土地を買っていたのは損失を抱えることになります。
このとき,証券会社の言うことを聞いて株を買った顧客の穴埋めをする「損失補填」を行ったことにより,「証券監視委員会」が設立されるきっかけとなりました。
余談ですが,僕の父もまさにバブル期の証券マンだったので,(株の取引手数料で会社の業績が良く)子ども心に贅沢な生活をしていたと思います。その後,不景気が直撃してめっちゃ大変でした(笑)。
父が亡くなる頃,「あのウン千万円があったらな…」とボヤいていたことがあったと母が言っていたのを覚えています。このお金がまさに顧客の穴埋めをするお金だったようです。
1997〜98:大手金融機関の破綻相次ぐ
1997年から大手金融機関の破綻が続きます。
私事ですが,ウチの父が働いていた金融期間も破綻しました。
名前だけは聞いていたことがありましたが,朝のニュース番組で「◯◯証券破綻」というのを聞いてから,家計がどんどん厳しくなっていったのを覚えています。
1999:派遣法改正(一般事務の派遣,原則自由化)
1999年,派遣法が改正されます。今まで16業務に限定されていた派遣に「一般事務の派遣」が原則自由化されることになりました。
今では派遣の職種としてすっかりおなじみの「一般事務」はこのときに解禁されたんですね。
2000:大卒の就職内定率,史上最低に
2000年,大卒の就職内定率が,史上最低を記録します。
- 1997年:94.5%
- 1998年:93.3%
- 1999年:92.0%
- 2000年:91.1%
この頃,新卒として就職活動をしていた人たちが俗に言う「就職氷河期」と言われる人たちです。今でこそ若年層向けの就職支援サービスは整ってきましたが,当時(現在も?),日本の採用システムは新卒至上主義で,新卒のレールから外れた人にとって正社員就職は夢のまた夢となりました。
余談ですが,就職内定率は東日本大震災のあった2011年に91.0%で記録を更新しています。
2004:改正派遣法施行(派遣対象業務,製造業に拡大)
2004年,改正派遣法が施行されます。これにより,製造業も派遣が可能になりました。今では派遣の人気職種ナンバーワンツー(女性の一般事務,男性の製造業)はこのときに確立されたことになります。
2005:派遣市場規模,4兆円突破
2005年,派遣史上規模が4兆円を突破しました。
『ハケンの品格』の主な登場人物
『ハケンの品格』を彩る個性豊かな登場人物たちをサラッと見ておきましょう。
テレビドラマだけあり,ちょっとした三角関係も面白いです(笑)
詳細は「ハケンの品格 – Wikipedia」におまかせするとして,ここでは簡潔かつ独自に紹介します。
掲載する順番は悩んだのですが,恋愛の上位になる人を上の方に記載することにしました(安田顕さん演じる派遣会社のマネージャー・一ツ木慎也は恋愛の関係がないので例外的に最後に記載)。
大前 春子(演:篠原涼子):スーパーハケン
本作の主人公。派遣会社「ハケンライフ」に登録している特Aランクの派遣社員。
さまざまな資格を持っていて,本作でもそのスキルを活かして問題を解決します。
契約期間は3ヶ月。
勤務時間は月曜から金曜までの9時から,正午より1時間の昼休みを挟んで,午後6時までとする。
契約期間の延長は一切いたしません。
担当セクション以外の仕事はいたしません。
休日出勤,残業はいたしません。
派遣として働くときは,常にこの条件で働きます(笑)。
私を雇って後悔はさせません。
3ヶ月間,お時給の分はしっかり働かせていただきます。
働くときの決め台詞。
東海林武(演:大泉洋)
本作の舞台となる食品商社「S&F(エスアンドエフ)」販売二課主任。
大前春子とは相性が悪くとことん対立するのですが,どうしても好きになっちゃうみたいな。
『ハケンの品格』は大泉洋さんの本領発揮というか,彼の色が本当に良かったです。大前春子を「とっくり」(いつもタートルネックのセーターを着ている)と呼べば,彼女は東海林主任を「くるくる」と呼ぶ(天然パーマ/笑)。もう大泉洋さんでなければ成立しません(笑)。
TEAM NACSの安田顕さんも出演しているので「TEAM NACSが好き」「『水曜どうでしょう』が好き」という人なら間違いなくハマると思います(僕もそれだと思います/笑)。
個人的には,「首ったけかよ とっくりだけに」というセリフが好きです。
里中健介(演:小泉孝太郎)
同じく「S&F(エスアンドエフ)」マーケティング課主任。
一言で言うと,人はいいけれど仕事はできません(笑)。
情に熱く,チームがボロボロになりそうなマーケティング課をどうにかまとめようと奔走します。
実は大前春子のことが気になって仕方ない(ここで三角関係成立)。
森 美雪(演:加藤あい)
新米ハケン。面談時に「Word」「Excel」「PowerPoint」ができると言って「即戦力」として入社したにもかかわらず,パソコン操作が苦手というトラブルメーカーです。
本作では彼女がトラブルを起こすことで大前春子が解決するというきっかけになります。
先輩である里中主任のことが気になる(三角関係)。
浅野 務(演:勝地涼)
「S&F(エスアンドエフ)」の新入社員。里中主任の下で一生懸命働きます。
彼は森美雪さんに一目惚れ(三角関係の末端)。
一ツ木慎也(演:安田顕)
派遣会社「ハケンライフ」のマネージャー。大前春子や森美雪のお世話をする係です。
取引先(派遣社員を送る企業先)である「S&F」には営業マンならではの姿勢を見せます。
大泉さんと安田さんが組むとそれだけで良いですね(笑)。
『ハケンの品格』の名言
『ハケンの品格』には,ところどころドキッとさせられる名言が登場します。
ここでは僕が見ていて気になったものをピックアップして紹介します。
※今,2周目を見ているので随時追記します。
第1話
森 美雪:私,高望みはしません。とにかく早く仕事に就きたいんです。
一ツ木慎也:あなたのようにお勤めした経験がないと,派遣先が限られてしまうんです。
物語の冒頭部,不況のあおりを受けて正社員として働けず,仕方なく派遣社員として働くことになった森 美雪が派遣登録をするとき,一ツ木慎也に言うセリフ。
本人は働いて職歴やスキルを身につけたいと思っているのに,「職歴がないと働けない」という矛盾。現実もこれに苦しんでいる人は多くいます。
部長(松方弘樹):また面接かよ…(ボヤく)
主任(大泉洋):面接ではなく,面談といいます。
派遣希望者(加藤あい):面談? 面接とどこが違うんですか?
主任:面接というのは,派遣法で禁じられているわけです。我々派遣先は,派遣スタッフをよりものにしちゃいかんということになっているわけです
派遣希望者:でも面談で落とされちゃうこともあるんですよね?
派遣会社マネージャー(安田顕):おおいにあります。
主任:まあやってることは同じなんですけど『面接』とは呼べないから『面談』と。
ドラマや映画でよくある,2つのカット(部長と主任,派遣希望者と派遣会社のマネージャー)を交互に組み合わせて1つのシーンをつくる場面でのセリフです。
派遣法上,「面接」ではなく,「面談」という言葉を使う企業。
しかし,企業が臨むスペックを満たしていなければ面談でも落ちてしまうことがあります。森美雪は面談中,Word・Excel・PowerPointが使える使えるとウソを言って受かりました(笑)。
働くことは,生きることだ
大前春子が森美雪に言う言葉。本作でキーになるセリフです。
それは大きな間違いだね。
正社員になってもリストラ,あと潰れたら終わりだね。タイタニック沈没みたいに。
なのに会社のために根回し,ゴマすり,出世レース。
ムダ,全部ムダ。
不景気が100年続こうと,日本中の会社が潰れようと私は大丈夫。
派遣が信じるのは自分と時給だけ。
生きていく技術とスキルさえあれば自分の生きたいように生きていける。
「就職試験に23社落ちた,大学卒業して8ヶ月,アルバイトを転々して。あんな会社で働けたら人生変わってたんだろうな…」という森美雪の発言を聞いたあとの大前春子のセリフ。
第2話
プライド,そんなものより私にはもっと大切なものがあります。
それは,派遣として生きていくことです。そのためには,メンツやプライドを重んじる正社員とも上手く共存していかなければなりません。
東海林主任とのホッチキス対決にわざと負けた大前春子。里中主任に「わざと負けて謝るなんておかしいですよ。悔しくないんですか? あなたにもプライドがあるでしょ?」と言われたあとのセリフです。
第3話
一緒に同じことをするのが友だちかね 。かわいそうに。
そんなの友だちじゃなくて,金魚のフンだね。
合コンより仕事を優先させた森美雪が「またひとりになっちゃう」と不安になって相談したときの大前春子にのセリフです。続く「じゃあ本当の友だちってなんですか?」という質問には「なんだそのくだらない質問」と返します。
第4話
派遣のトラブルでいちばん多いのが時給の問題で2番目に多いのが正社員との色恋沙汰
大前春子のことが気になって仕方ない東海林主任が派遣会社の一ツ木さんに彼女の個人情報を聞き出そうとするときのセリフです。TEAM NACSのふたりのコンビは相性抜群(笑)。
派遣スタッフ:あたしの派遣会社にも登録しておけば? もっと時給の良い仕事紹介してくれるよ。
森美雪:そんなことできるんですか?
派遣スタッフ:みんなやってるわよ
第4話は,森美雪が初めてのお給料をもらうという話も進行します。
初めてのお給料は103,200円。家賃と光熱費払ったら次のお給料日まで持ちません。
その後,同社で働く派遣スタッフ(モブキャラ)との会話です。
同社で働くパソコンに強い派遣スタッフ近耕作(演・上地雄輔)から「オレも3社登録している」と聞いて,森美雪の中で複数の派遣会社に登録する方法が思い浮かぶようになるのでした。
複数の派遣会社に登録することは問題ありませんが,「みんなやっている」という理由で派遣先の仕事を休んだりして面接に行くのはよくありません。本作でもそういうことをみんなやっているから「派遣が信用されないんだ」という教訓を得ます(森美雪はクリーンキャラです)。
第5話
ハケンは3ヶ月に一度,リストラの恐怖にさらされるんです。
あの人は会社に甘えて危機感がなさすぎたんです。
かつて,現役の営業マンとして働いていた嘱託社員・小笠原繁がリストラの危機に合っているときの大前春子のセリフです。それまでの雰囲気が一変する名言でした(役者さんたちも全員素敵)。
第6話
残業は仕事のトロい無能な社員がお給料を水増しするためにするものです。
残業は意欲の表れではなく,職務怠慢の表れです。
会社全体が「残業するぞー!」という雰囲気の中で発せられた大前春子のセリフです。これは現在はけっこう聞かれる言葉ですよね。『ハケンの品格』が放送された2007年当時では,まだ「残業」が当たり前になっていたかと思うと,少しずつ世の中の「常識」が変わっているのだと感じます。
焦らないで,一日一日小さな目標を立てて頑張ろう。
今目の前にあることを一生懸命やっていれば,いつか高い所に辿り着ける。
自分の可能性信じよう。
いつか先輩(大前春子)みたいになりたいと思いながら何もできずに焦る森美雪が里中主任に相談したときの彼のセリフです。よく聞く言葉ではありますが,だからこそ僕も同じように思っています。
第7話
派遣の見返りは時給のみ。
派遣は仕事に名誉や見返りも期待してはいけません。
森美雪が企画を作っているときの大前春子のセリフ。いつもは意見が合わない東海林主任とも180度回転すると意見が妙に合ってしまいます(笑)。
一方,里中主任は「人は誰かに認められて成長するんじゃないでしょうか」と意見するのでした。
『ハケンの品格』は「Hulu」で配信中
現在,『ハケンの品格』の続編は近日公開です(はよ)。
第1シリーズは「Hulu」で配信されているので,今のうちに予習復習しておきましょう。